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IT事件簿
【IT事件簿】猫虐待で検察を動かした“2ちゃんねる世論”の恐ろしさ 2002年8月9日
猫の耳やしっぽを切って殺害した画像をインターネットの掲示板サイト、“2ちゃんねる”で公開したとして福岡地検は、広島県呉市の無職の男(27)を動物愛護法違反の疑いで8月6日逮捕、7日に同法違反容疑で福岡地裁に起訴した。同法違反での逮捕・起訴は極めて異例。男は今年5月書類送検されたが、地検には厳罰を求める電子メールや手紙が多数寄せられた。地検は「社会的影響が大きい」として、世論を配慮して起訴に踏み切ったとみられる。(8月7日の各紙の報道から)
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広島県の男が2ちゃんねるで公開していた猫の画像の一部 |
摘発のきっかけも2ちゃんねる世論
2ちゃんねるを舞台にした異例尽くめの事件。動物愛護法違反での逮捕・起訴も異例なら、任意捜査、書類送検で一度処理された容疑者を全く同じ事件、同じ容疑で逮捕・起訴するのも異例。極めて珍しい結果になったのは、2ちゃんねる内でのこの男に対する批判が大きく影響した。最初、5月に警察を動かして摘発、書類送検させたのも2ちゃんねる内の声がきっかけ。さらに今回、検察を逮捕・起訴に持ち込ませたのも2ちゃんねる内の世論。男が画像を公開したのが2ちゃんねるだったこともあるが、2ちゃんねるの世論の盛り上がりによって警察や検察が動いたことは間違いない。
起訴状などによると、男は5月6日午後11時10分ごろから7日午前3時20分ごろまでの間、当時住んでいた福岡市東区の自宅マンションの浴室で猫のしっぽや左耳をはさみで切ったり、首をひもで縛って殺害。その様子をデジカメで撮影して2ちゃんねるの“ペット大嫌い”掲示板に、“ネコ虐殺実況中継”として画像を掲載した、とされる。猫は自宅近くで拾ってきた子猫。男は2ちゃんねるに「ネコをつかまえた。どうしましょう」と書き込んで呼び掛け、これを読んだユーザーによる「耳を切れ」「しっぽを切れ」などの書き込みに応えて猫を虐待し、画像を公開したらしい。
男による猫虐待画像の公開は、すぐに2ちゃんねる内で話題に上り「虐待は許せない」と男を糾弾する書き込みが盛んにされた。同時に2ちゃんねる内では犯人探しも行なわれ「こいつだ」として男の福岡市の住所や実名などの個人情報が勝手に書き込まれた。それを受けて、マスメディアが「ネットの掲示板でこんな画像が公開された」などと5月8、9日に報道。記事には「福岡県内から投稿された可能性が高く、福岡県警が動物愛護法違反の疑いで捜査を始めた」などと書かれた。この間、2ちゃんねるを見た動物愛好者、愛護団体から、県警や警察庁に取り締まりを求めるメールや電話が合わせて100件以上寄せられた。福岡県警は男を逮捕ではなく任意で捜査し5月22日、動物愛護法違反の疑いで書類送検した。2ちゃんねるの世論が警察を動かし、その結果、男が摘発されて書類送検という形で処理された。
エスカレートする2ちゃんねる世論
ところが、2ちゃんねるの世論は書類送検では納得しなかった。その後地検には「猫がかわいそうだ」「厳罰にしてほしい」「最大の刑にするべき」などの内容のメールや手紙による要望が、1日あたり数十件から100件以上届いたという。検察はこうした声を受け、男が撮影した画像の鑑定を獣医らに依頼。分析結果から、猫が殺害された疑いが高いと判断し、男を逮捕した。県警での捜査段階で男は、猫への虐待は認めたものの、殺害は否認していた。ただ、殺害していたことが分かったから逮捕、というのはいわゆる後付けの帳尻合わせ。いったん県警が書類送検で処理した容疑者を、県警を立てながら逮捕・起訴するための意義付けに過ぎない。検察が逮捕・起訴したのは自らが言うように「社会への影響が大きい」ということが最大の理由だ。
動物愛護法は正式には“動物の愛護及び管理に関する法律”。2000年12月、それまでの“動物の保護及び管理に関する法律”を改正して施行された。改正前は、動物をみだりに殺し傷つけたり、苦しめることなく適正に取り扱うこと、が法律の目的だったが、改正後は、動物が物ではなく命であることを強調。殺してしまうような虐待に対する罰則を、改正前の3万円以下の罰金又は科料から、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金へ、厳しくした。とはいえ、動物虐待での摘発の一般的なケースは、任意捜査→書類送検→略式起訴→罰金刑で、今回の事件で県警が行なった書類送検での処理が妥当なところだ。しかし検察はあえて、異例の逮捕・起訴、裁判の実施へと持ち込んだ。
検察をも動かす世論を形成した2ちゃんねる。検察の言う逮捕・起訴の理由での「社会への影響」の“社会”とは、2ちゃんねるを指しているようだ。警察に摘発させただけでなく検察に逮捕・起訴までさせ“影響の大きい社会”と検察に意義付けられた2ちゃんねるだが、その実態は極めて危うい。2ちゃんねるを社会の“世論”と勘違いして踊らされていると、警察や検察はいずれ大恥をかくことにもなりかねない。そんな危険性を2ちゃんねるは秘めているのだ。
世論ではなく総会屋? に踊らされた
2ちゃんねるに近いあるインターネット関連会社の社長は、2ちゃんねるの幹部から得た話として証言する。「2ちゃんねるは、運営者や幹部などがそれぞれ別々に会社を作りカネの流れを見え難くしているが、実際の資金源は複数の大手通信会社系からの調査費名目のカネ。月額で計約700万円と言い、年間にすれば1億円近く。額はともあれ、これは通信会社系的には、ぼう大なトラフィックを調査すると言う表向きの理由が一応は立つ。自社系に都合の悪い書き込みがされた時に優先的に削除してもらうことも期待している」と前置きし「通信会社系の削除の期待も含めて、2ちゃんねるは総会屋と同じになっている」と言うのだ。
その具体的な理由として社長は、こう話す。「2ちゃんねるはボランティアの削除人が書き込みをチェックして、好ましくない書き込みを一所懸命削除している、ということになっているが、あれはウソ。削除人には給料が支払われ、その給料の原資となっているのが、まずいことを書き込まれた企業が削除要求とともに渡す裏金。これはまさに、総会屋の構図そのものだ。これまで裁判になっているのは金額で折り合えなかったり、裏金を出さない強い態度の企業とだけだ」
もしこの社長の証言が事実だとすれば、警察や検察は、総会屋と同じ仕組みの掲示板サイトに動かされて摘発したり、異例の動物愛護法による逮捕・起訴や、書類送検で処理した容疑者を異例の逮捕・起訴に持ち込んだことになる。「社会への影響」と検察が言う“社会”が、実は総会屋に等しいものだった、とは、警察、検察にとって何とも情けない話である。
個人情報保護法施行なら閉鎖か
今回の事件では警察が摘発する以前に、容疑者とされる男の住所や実名が2ちゃんねるに書き込まれた。結果的に事実ではあったが、事実かどうかには関係なく、その段階では容疑者とされていなかった人物の個人情報が勝手に書き込まれたことには変わりない。本人の同意なしの第三者への個人情報提供の原則禁止を義務付ける個人情報保護法案は、7月に閉会した国会では成立せず、継続審議となった。だが、もし個人情報保護法案が施行されれば、こうした書き込みをしたユーザーや、書き込みを放置した2ちゃんねる側は、罪に問われることになる。
法案は今秋の臨時国会での成立を目指すことになっている。成立、施行後は、誰もが勝手に書き込みできる2ちゃんねるが、現状のまま存続できないことは明らかだ。その場合、警察や検察は何をもって“社会”“世論”と考えるのだろうか。
(麻河紀人) |